#15 笑う角

もこさんタイトル

#15 笑う角


母親の介護を、自身の娘さんとしているご長女さん。
90歳近いお母さんの介護は、もう5年以上になると言う。
長い介護生活で大切にしていることは何ですか?と聞くと、
なんでも笑いに変えることです、とおっしゃった。

以前は何度も同じことを聞く母親に対して、
ついきつい口調になったり、
日々イライラしていたと言う。
なのに母親は、数分後には何事もなかったようにケロッとしている。
そんな母を見て、腹を立てるだけ損だと感じ、
それからは、とにかく笑いに変えるようにしたと言う。

そしたら母親との日々のやり取りが、まるでコントのように思え、
「志村けんのコントで、なんだっけ?ってありますよね?
あんな感じなんです」と、
娘さんは、笑いながら話してくれた。

ウィリアム・ジェームズと言う哲学者は、
「悲しいから泣くのではなく、泣くから悲しいのだ」と言う。
言い換えれば、
「楽しいから笑うのではなく、笑うから楽しいのだ」、
という発想にもつながる気がする。

そんなことをぼんやり考えていると、
まちあいからゲラゲラと大きな笑い声が聞こえてきた。
笑い上戸のお母さん。まるで笑い袋みたいなのだ。
体重を測っては笑い、血圧を測っては笑う。
体調を聞けばまた笑う。何がそんなに面白いのかゲラゲラ笑う。
いつの間にか、こっちまで楽しくなってゲラゲラ笑う。
隣の娘も笑う。先生も笑う。笑いが伝染する。

笑う角には福来る、
お母さんのおかげでクリニックは福でいっぱいになった。

冨田しのぶ

Shinobu Tomita

映像クリエーター/元のぞみメモリークリニック医事

映像クリエーターとして企画、撮影、編集を手掛ける。動画広告、e-Learningコンテンツ、映画予告編など。
介護ヘルパー、のぞみメモリークリニックにて医療事務スタッフを経験。
また、2021年に三鷹市地域福祉ファシリテーター養成講座を受講。その後、地域福祉についての情報を発信する情報メディア「とみぞうさんと地域福祉未来研究所」立ち上げ。メールマガジンやYouTube、Instagramで地域福祉の未来につながるような情報を発信。2025年7月、映像クリエーターとして活動を再開している。
メールマガジンに掲載したインタビューをまとめた冊子。
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