#05 夜間飛行
ここは認知症専門のクリニック。
「何かお変わりごとはありますか?」
「それが何も変わらないんです。薬を飲んでもちっとも変わりません」と、
残念そうに話す受診者さん。
それに対して先生はニコニコと、
「変わらないようで何よりです」「え?」
良くなることを願って病院へ来たはずなのに。
「我々が目指すのはスローランディングなんです」と、先生は言った。
今のところ不老の薬も売っていないし不老不死の鳥も実在しない(とされている)。
良くなる変化を実感するのは難しく、
なので、変化がないこと=安定=平穏無事な老化の一手と言ったところだろうか。
しかしこの安定、実はともて難しい。
生活の中では、怪我や病気、事故などトラップが潜んでいる。
クリニックを訪れる受診者さんが飛行を楽しんで、安全に着地できるよう整備を整える。
先生と受診者さんのやり取りの中で、言わば飛行整備士のような役も私の役の一つなのだと思った。
先日亡くなったナカムラさんは、会えばいつもニコニコしていた。
ご家族や地域の人たちに見守られながら最期まで一人で生活をしていた。
お酒が大好きで、昼にお蕎麦を食べに行ってもお蕎麦を食べずにお酒ばかり飲んでいた。
ほろ酔いで気分が良くなったナカムラさんは、亡くなった奥様との馴れ初めを語ってくれた。
頬が赤らんでいたのは、お酒のせいなのか照れなのか、今となっては分からない。
着地途中の星では奥様と会えたかしら?まさに愛の不時着。
この人はどんな飛行をしているのか?楽しんでいるのか?
今日も話しを聞きながら想像してみる。
自分だったらどんな飛行をして生きていきたいか?
どこかの星で王子様と狐には是非とも会ってみたい。
冨田しのぶ
Shinobu Tomita
のぞみメモリークリニック医療事務スタッフ/映像クリエーター
映像クリエーターとして企画、撮影、編集を手掛ける。動画広告、e-Learningコンテンツ、映画予告編など。
介護ヘルパーを経て、現在はのぞみメモリークリニックにて医療事務スタッフとして従事。
また、2021年に三鷹市地域福祉ファシリテーター養成講座を受講。その後、地域福祉についての情報を発信する情報メディア「とみぞうさんと地域福祉未来研究所」立ち上げ。メールマガジンやYouTube、Instagramで地域福祉の未来につながるような情報を発信。
メールマガジンに掲載したインタビューをまとめた冊子。
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